過去50年で最大の航空業界改革?
飛行機なら3時間以内でヨーロッパのほとんどの国に行かれるイギリスに住んでいると、出発の2時間前にチェックインをするために自宅を早く出なくてはならいことが、ことさら時間の無駄のように感じることはないだろうか。空港へのアクセスが悪い地域にお住まいの方はとくに、飛行機に乗る前にはすでにクタクタになってしまうということもあるだろう。しかし、それももうすぐ過去のことになるかも?
チェックインなしで搭乗?
近い将来、チェックインカウンターでパスポートを提示し、搭乗前にはセキュリティチェックで航空券を提示するという従来のプロセスが不要になるという。これが、過去50年間で最大の航空旅行の変革だ。
国際民間航空機関(ICAO)によると、パスポートはスマホにアップしてデジタル化し、空港到着時には顔をスキャンするだけという、まさに夢のような空の旅の始まりが3年以内に実現するといういうのだが。
自分が何者で、どの飛行機に乗って、どこに行くのかはどうやって証明するの?
旅行者は、身分証明書として物理的な書類を携帯する代わりに、「デジタル旅行証明書(Digital Travel Credential)」をスマートフォンに保存するようになるという。これには、パスポートやフライトの詳細など、飛行機に搭乗するために必要なすべての書類が含まれることになりそうだ。
また、旅行パッケージの一部として、スマートフォンに「旅のパス(Journey Pass)」をダウンロードをしておくと、フライトの遅延や欠航の情報が自動的に更新されるというからありがたい。
荷物はその量に応じて、引き続き手荷物預かり所またはセキュリティゲートでセキュリティチェックを受ける。
空の旅の時間削減に貢献
現在、搭乗券はスマートフォンにダウンロードするか空港で印刷した上で、搭乗ゲートで機械に読み込ませるようになっている。しかし新しいシステムでは、空港到着後にセキュリティチェックで顔がスキャンされると、自動的に航空会社に通知が行くようになる。これにより、空港でのセキュリティチェックのプロセスが大幅に短縮されると期待されている。
デジタル旅行証明書の付加価値
セキュリティチェックの合理化に加え、一部の航空会社はデジタル旅行パッケージに「位置情報」サービスを含めることを検討している。
例えば、英国航空、エールフランス- KLM、フィンエアー、サウディア航空などは、乗客に出発ゲートまでの道順を提供するサービスを検討中という。その他、混乱や追加料金を避けるため、フライトの遅延をレンタカー会社に自動で通知するなどのオプションも追加されるようだ。
本当にいいことばかりなの?
この画期的なシステムを実現させるためには、各空港が顔認識技術を導入する必要がある。
現在のところ、顔認識技術がこのような形で使用されている国は、海外から帰国する乗客向けに導入しているアメリカ合衆国など、ごく一部だ。
イギリスでは内務省が昨年に、パスポートの提示を不要にするため、顔認識技術を用いた国境の電子ゲート導入を検討していると発表した。これについて、世界最大の旅行テクノロジー企業であるアマデウスのヴィアーレ氏はタイムズ紙の取材に対し、「このようなシステムを実現させるには、航空会社業界全体でシステムの一貫性を保ち、相互運用性を確保しないとならないが、多くの航空会社のシステムは過去50年以上も大きく変わることがなかった」と述べている。「現在、航空会社のシステムは非常にサイロ化されている。しかし、将来的にははるかに継続的なものに、そして『旅のパス』は動的なものになるだろう。」
しかし、空港がテクノロジーに頼りすぎたことで、大きな問題に発展してしまったという事例が過去にいくつも発生しているということも事実。
2024年7月には、マイクロソフトのアップデートに不具合が生じたことで飛行機が着陸不能に陥った。これにより世界中で混乱を引き起こされ、イギリス国内だけでも、ヒースロー空港、ガトウィック空港、エディンバラ空港などの空港では出発案内板が完全に停止し、乗客は何時間も足止めとなった。
また、機械が読み込んだデータの行方も気にあるところだ。ICAOでは、チェックイン手続きにおいてスキャンされた情報は一切保存されないとしている。個人情報漏洩を防ぐため、記録されたデータは15秒後にはシステムから削除されるというのだが。
テクノロジーによる利便性向上には、個人情報がすべてデジタル化されることに伴う漏洩の危険と不安が付きものだ。こういった問題とどこで折り合いをつけるかが課題となろう。